金沢大学附属病院 リウマチ・膠原病内科

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シェーグレン症候群に起因する糖鎖異常IgA1関連糸球体腎炎の症例報告 

 西岡特任助教のシェーグレン症候群に起因する糖鎖異常IgA1関連糸球体腎炎の症例報告がBMC Nephrologyに掲載されました。

Glomerulonephritis with severe nephrotic syndrome induced by immune complexes composed of galactose-deficient IgA1 in primary Sjögren's syndrome: a case report. 

Nishioka R, Hara S, Kawahara H, Ito K, Mizushima I, Hirata M, Nagata M, Kawano M. 

BMC Nephrol. 2021 Mar 25;22(1):108. doi: 10.1186/s12882-021-02306-0. 

  原発性シェーグレン症候群はリンパ形質細胞の浸潤による涙腺・唾液腺の炎症を特徴とする自己免疫疾患です。症状は涙腺・唾液腺の炎症の結果、涙液・唾液の分泌量が減少して生じるドライアイ、ドライマウス(腺症状)が主ですが、時に腎炎、間質性肺炎、関節炎、血球減少、神経障害など多彩な「腺外症状」が生じ重大な臓器障害を生じます。多彩な腺外症状はシェーグレン症候群で起きている免疫異常が人体に与える影響の多様性の表れと考えられますが、免疫異常と腺外症状の因果関係が直接的に示されることは少なく、腺外症状の病態は未だ十分に解明されていません。

  今回報告した症例はネフローゼ症候群を呈した原発性シェーグレン症候群の一例です。腎生検では上皮下・基底膜内・傍メサンギウム領域にIgA, C3の沈着を伴う糸球体腎炎が認められました。IgA含有免疫複合体の沈着を伴う糸球体腎炎と言えば、ガラクトース欠損IgA1(Gd-IgA1)含有免疫複合体が傍メサンギウム領域に沈着し増殖性腎炎を生じるIgA腎症が有名ですが、糖鎖異常IgAはシェーグレン症候群や関節リウマチなどのリウマチ性疾患でも高頻度に出現することが知られています。本症例では、糸球体腎炎の原因となった可能性のあるGd-IgA1が小唾液腺導管周囲に浸潤したリンパ形質細胞から産生されていることを、小唾液腺生検検体の免疫染色により証明できました。

   シェーグレン症候群に於ける腺外症状の病態を解明することは、時として患者のQOLや生命予後を脅かす臓器合併症の発症予測や治療に寄与するものと考えます。今後も一層の症例経験を積み、シェーグレン症候群の病態解明に貢献したいと思います。

  また、今回の検討には小唾液腺生検検体が不可欠でした。長年、地道に小唾液腺生検を実施なされ、その重要性を啓蒙なさっている当科の鈴木康倫先生に感謝申し上げます。