研究紹介
当研究室は関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、血管炎等の膠原病をはじめ、関連する腎疾患などの治療、研究を行っています。私たちの研究対象は比較的症例数の少ない疾患ですが、北陸三県の主要なリウマチ関連施設との連携を活かし、精力的に多施設共同の臨床研究を進めています。特にIgG4関連疾患においては日本有数の症例数を誇り、精力的に臨床研究を行っています。
ジュネーブ大学、台湾医科大学、金沢大学がん進展制御研究所、筑波大学腎・血管病理学講座、京都大学大学院医学研究科腎臓内科学、京都大学医学部消化器内科など第一線の研究施設との共同研究をはじめ、基礎研究にも積極的に取り組んでいます。
1.IgG4関連疾患
① IgG4関連疾患の多施設共同臨床研究
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値、病変組織へのIgG4陽性細胞浸潤、臓器の腫大・腫瘤形成、線維化を特徴とする疾患です。気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患をよく合併します。IgG4関連疾患の罹患臓器は、膵臓、涙腺、唾液腺、腎臓、肺、後腹膜、動脈周囲、胆管、肝臓など多岐にわたり、サルコイドーシスのように身体中のあらゆる臓器をおかします。私たちリウマチ・膠原病グループでは、2007年より全国レベルの研究会であるIgG4研究会を組織し、全国から様々な領域のスペシャリストが集まる総会の開催を通じて、本疾患の臨床と研究の発展に寄与してきました。2019年よりこのIgG4研究会は日本IgG4関連疾患学会として新たなスタートを切り、さらに活動の輪を広げていくことになります。このような学術活動に加え、日本語、英語、中国語の教科書を出版しながら、IgG4関連疾患の疾患概念の普及にも努めています。
腎臓はIgG4関連疾患における主要な標的臓器の一つです。私たちも参加した日本腎臓学会のワーキンググループでは、IgG4関連疾患に特異的な腎実質・腎盂病変を総称してIgG4関連腎臓病と定義しています。このIgG4関連腎臓病に関して、私たちは多施設共同研究を行い、多数の患者さんでの知見に基づいて本疾患に特徴的な臨床病理像やステロイド治療後の臨床経過を明らかにしてきました。また、2011年の本疾患診断基準作成にも関わり、現在は診断基準改定に向けた現行の基準の妥当性の検証も行っています。今後、引き続いて治療指針の策定に向けて、ステロイド維持投与における至適投与量や投与期間、またステロイド代替療法についても検討していきたいと考えています。
IgG4関連疾患は血管病変も比較的高頻度に認めることがわかっており、動脈外膜を中心とした動脈周囲炎が典型的病変です。この動脈周囲病変においては、病変部の血管が拡張して瘤化し、破裂する危険性が指摘されていました。私たちは、この問題についても多施設共同研究を行い、IgG4関連動脈周囲炎患者さんでは他臓器のIgG4関連疾患患者さんと同様の臨床像、良好なステロイド反応性を示すことを報告し、第9回日本シェーグレン症候群学会奨励賞を受賞しています。この血管病変については、長らく診断基準が作成されていませんでしたが、私たちは診断基準作成ワーキンググループに参加し、全国から収集した多数の患者さんのデータに基づいて、血管病変特異的な診断基準を作成しました。血管病変においても、治療指針は未だ確立されておらず、引き続き最適なステロイド治療や他の薬剤、非薬物療法の有効性について検証し、またあわせて血管病変に高率に認められる動脈硬化との関連についても検討していきたいと考えています。
さらに、このような特定の臓器に焦点をあてた検討に加え、当科で診療する多様な臓器病変をお持ちの多数の患者さんの長期にわたる臨床経過を解析することで、IgG4関連疾患の自然歴や経過中の疾患再燃・再発に影響する因子について、新たな知見を見出し報告を重ねています。今後、国が主導するIgG4関連疾患患者さんの国家規模のレジストリ構築にも参加し、さらなる本疾患の診療の発展に寄与していきたいと考えています。
② IgG4関連疾患モデルマウス
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値、病変組織へのIgG4陽性細胞浸潤、線維化およびTh2優位の免役反応を特徴とする疾患です。しかしながら、IgG4関連疾患の発症機序については未だ明らかとなっておりません。またIgG4関連疾患はステロイドに良く反応し、病変の改善を認めますが、ステロイド減量による再燃例を認めることや長期ステロイド投与による副作用が問題となっています。しかしながら現在のところ、ステロイド代替薬については確立されていません。IgG4関連疾患の病態の解明および新規治療薬の開発のためには、動物モデルが必要と考えられました。私たちは、T細胞活性化リンカー(Linker for activation of T cell;LAT)の136番目のチロシンをフェニルアラニンに変異したLat Y136F knock-in miceに着目しました。このマウスは、Th2優位の免役反応およびポリクローナルなリンパ増殖を自然発症します。また、マウスのIgG1(ヒトのIgG4に対応)高値も認め、ヒトのIgG4関連疾患と類似した特徴をしめします。このマウスは膵臓、腎臓、唾液腺、肺などへのIgG1陽性細胞浸潤、血清IgG1高値、血清Th2サイトカイン高値、ステロイド反応性等の特徴を有することから、ヒトのIgG4関連疾患のモデルとなり得ることがわかりました。
③ IgG4関連疾患におけるAPRILの役割に関する研究
IgG4関連疾患においては、病変局所へのIgG4陽性形質細胞浸潤を認めます。しかしながら、なぜIgG4陽性形質細胞が各臓器の病変に浸潤するのか、なぜ生存し続けることができるのかという点についてはよくわかっていません。私たちは、B細胞及び形質細胞の生存に関与する分子であるA proliferation-inducing ligand (APRIL)に着目しました。APRILはB細胞や形質細胞の生存シグナルとして働いています。したがって、IgG4関連疾患の病変においてもAPRILが重要な役割を担っていると推測しIgG4関連腎臓病患者さんの腎生検組織やIgG4関連唾液腺炎患者さんの唾液腺組織においてAPRILの発現を検討しました。その結果、IgG4関連疾患患者さんにおいてはシェーグレン症候群の間質性腎炎患者さんや唾石症の患者さんと比較して侵されている臓器の組織においてAPRIL産生細胞および可溶性APRILの発現が亢進していることが明らかとなりました。さらに、ステロイド治療前後の腎生検組織を比較すると、ステロイド治療後にAPRILの発現が低下していることが明らかとなりました。これらの結果から、APRILは少なくともIgG4関連疾患患者の病変組織においては、病変の形成に関与していると考えられます。
さらに私たちは、モデルマウスであるLat Y136F knock-in miceを用いて、IgG4関連疾患におけるAPRILの役割について検討しています。マウスのAPRIL阻止抗体を投与することにより、Lat Y136F knock-in miceの病変がどのように変化するかについて検討しています。こられの研究より、将来的にはAPRILがIgG4関連疾患の新規治療ターゲットとなりうるかについて検討していきたいと考えています。
④ IgG4関連疾患の病因抗原を探索する研究
IgG4関連疾患患者さんの血清、また血清中のIgG1、IgG4といった分子(抗体)をマウスに投与すると膵病変が惹起されたと報告されており、患者さんの血液中にある抗体に病原性があることが考えられています。そこで、本疾患の患者さんの血液中に存在するIgG1やIgG4を産生しているリンパ球から、IgG1、IgG4の産生を司る遺伝子を取り出し、人工的に患者さんの体内にあるIgG1、IgG4と同じ特徴を持つ分子を作成しました。この作成されたIgG1、IgG4分子がどのような物質(抗原)に反応するかを調べることで、IgG4関連疾患の病因に関わる抗原を探索する研究を行っています。
2.免疫グロブリン軽鎖による腎病原性の病態解析
M蛋白血症は、骨髄におけるモノクローナルな形質細胞の増殖によって、異常な免疫グロブリンが産生される病態です。過剰に産生された免疫グロブリンの成分である軽鎖や重鎖が様々な形態をとりながら腎組織に沈着することによって組織障害を起こしますが、その種類はALアミロイド―シス、クリオグロブリン腎症、Light chain proximal tubulopathy、crystal-storing histiocytosis (CSH)、軽鎖沈着症、Cast nephropathyなど非常に多彩です。
なかでもCSHは、モノクロナールな軽鎖が近位尿細管上皮細胞や間質組織球に取り込まれ、そこで結晶化することで組織障害が惹起される稀な病態ですが、私たちは多発性骨髄腫に合併した特殊な症例を経験しました(Medicine (Baltimore). 2019 Feb;98(5):e13915.)。本症例の極めて特異な点である糸球体ポドサイト障害およびマクロファージ内のクリスタル形成に注目し、新たな動物モデルを作成し、病態解明、さらには慢性腎臓病の新規治療へ応用することを目指しています。
3.ループス腎炎
全身性エリテマトーデスは膠原病の代表的な疾患です。免疫異常により全身の臓器が障害されます。特に、腎臓病変はループス腎炎と呼ばれ、最も頻度が高く、難治性です。治療はステロイドを中心とした免疫抑制療法が行われますが、ステロイドの副作用が問題となり、ステロイドに代わる治療が求められています。ループス腎炎では、病理学的に管内増殖性病変やワイヤーループ病変を含む多彩な病変が出現します。また、それぞれの患者さんでこれらの病変の程度や組み合わせが異なることも特徴です。これらの病変が形成される機序は、これまで明らかになっていません。当科では、ループス腎炎の各病変を再現するモデル動物を用いた基礎研究を行っています。これまで、腎臓に沈着した免疫複合体が腎臓固有細胞に与える影響に関して報告しました(Sci Rep. 2019)。現在、単球・マクロファージなどの白血球の遊走に関与する蛋白質のひとつであるケモカインに焦点を当て、ケモカインが各病変に与える影響を検討しています。また、これまで当科や関連病院で腎生検を施行したループス腎炎例は100例を超えています。当科では、この腎病理を用いて臨床的所見と病理学的所見の関連や予後に関する臨床研究を行っています。これらの研究成果は、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)やアメリカ腎臓学会(ASN)で発表するとともに、英語論文として発表しています。
4.環境要因と関節リウマチ
関節リウマチは人口の約1%が罹患し、最も頻度の高い膠原病の一つです。多発関節炎により日常生活の支障を来し、放置すれば関節破壊による機能障害を来します。抗TNFα阻害薬をはじめとする生物製剤は多くのRA患者で奏功し、寛解する患者も見られるようになりましたが、未だ約3割の患者では治療効果は十分ではありません。
関節リウマチ(RA)発症や重症化には先天的要因(遺伝的背景)に後天的要因(生活習慣など)が寄与すると考えられています。食事は全身の免疫反応に直接影響を与え、実際食物由来の分子が消化管上皮バリア、粘膜免疫系、腸内細菌叢と相互作用し、局所的および全身的な免疫修飾を担っており(Nat Rev Rheumatol. 2017;13:348)、また、食餌性因子や抗生剤による腸内微生物組成の変化は免疫調節機能に影響を与え、炎症を誘発し、最終的に炎症性腸疾患や全身性炎症性関節炎、膠原病などの自己免疫疾患を発症する感受性につながるといわれています(N Engl J Med. 2016;375:2369)。私たちは金沢大学、長崎大学、千葉大学との共同大学院「革新予防医学」に参画し、関節リウマチに関するコホート調査を行っています。このコホートでは地域住民の遺伝情報、免疫学的な検査所見に加え、食事習慣や腸内細菌のデータも集積されており、多施設で集積された大きなデータを解析することで真の関節リウマチにおける発症・進展因子を同定し、関節リウマチの発症予防、新規治療に関する知見を得ること目標に研究を進めています。
5.シェーグレン症候群の臨床研究
シェーグレン症候群は涙腺、唾液腺を特異的に障害する自己免疫性疾患である一方、その他の臓器病変も来す全身疾患です。私たちは1990年代より小唾液腺生検を合わせて500例以上施行しており、豊富な診療経験を有しています。乾燥症状の重症度、小唾液腺生検の結果、抗体プロファイルの違いなどが臓器病変および予後にどのような影響を与え得るか、1つでも多くの疑問に答えられるよう適切な研究デザインと統計手法を用いて解析中です。特に抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群を本邦では初めて我々が報告し、同抗体陽性者は乾燥所見が強い傾向があることを明らかにしました。日本シェーグレン症候群学会においては、抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群委員会を運営し、今後多施設共同の観察研究や本邦におけるシェーグレン症候群患者のコホートデータ構築を計画しています。国内ではシェーグレン症候群診療ガイドライン作成委員会に所属し、また医師主導多施設共同臨床試験に参加中です。国外では、スペインのRamos-Casalsが研究代表を務める”EULAR(ヨーロッパリウマチ学会) Sjögren Big Data Project”に本邦から唯一施設参加しました。
今後も自施設および多施設共同での臨床研究を通じて、より深くシェーグレン症候群患者の臨床像を捉え、質の高い診療に繋げられるよう研究・学会活動を続ける予定です。
6.ウロモジュリン関連常染色体優性尿細管間質性腎疾患(ADTKD-UMOD)
以前は、家族性若年性高尿酸血症性腎症と呼ばれていましたが、原因遺伝子(ウロモジュリン:UMOD)が発見された事より、ウロモジュリン腎症と呼ばれるようになりました。
また、他の複数の原因遺伝子も発見された事より、常染色体優性尿細管間質性腎疾患(ADTKD:Autosomal dominant tubule-interstitial kidney disease: diagnosis)という疾患名が2014年に提唱されました。ウロモジュリン遺伝子変異をもつ、ウロモジュリン関連常染色体優性間質性腎疾患(ADTKD-UMOD)の患者さんは、若年時から高尿酸血症、痛風、腎機能障害がみられ、典型的には中年期に末期腎不全のため血液浄化療法が必要となります。ADTKD-UMODの大きな臨床的特徴は腎障害、腎不全の家族歴が大変濃厚なこと、尿蛋白、尿潜血などの検尿異常がほとんどみられないことです。大変まれ(約1.5人/100万人)な疾患とされておりますが、実際には診断されていない症例が、多く存在する可能性もあります。当研究室ではADTKD‐UMODの一家系から新規のウロモジュリン遺伝子変異を見出し、尿中のみならず、血清ウロモジュリン蛋白濃度が有意に低下していることを世界で初めて報告致しました。(Hints to the diagnosis of Uromodulin kidney disease. CKJ 2015)また、全国の施設と共同研究を行い、本邦におけるADTKD-UMODの臨床像、腎組織像を解析し、国内外へ発信しております。(演題名:家族性若年性高尿酸血症性腎症から、ウロモジュリン腎症を経て、常染色体優性間質尿細管腎疾患へ 2019年10月日本腎臓学会東部会、招待講演)ウロモジュリン蛋白(別名Tamm-Horsfall蛋白)は、腎間質で産生され、尿中に最も豊富に存在する蛋白です。この蛋白の解析を通じて、腎間質障害のメカニズム解明、治療法の開発を目指しております。
当科で行っている臨床研究
現在、当科で行っている臨床研究を以下にお知らせします。
これらの研究はいずれも観察研究であり、それぞれの研究内容を紹介する掲示文書を添付しております。当院で診療を受けておられる患者様におかれましては、研究目的や研究内容をご確認いただき、この研究に参加したくない場合は、そのことをお申し出ください。お申し出をいただいた場合、臨床情報の研究使用をいたしませんし、またこれからの治療に差し支えることも全くありません。